りつの備忘録

推しをながーく愛でる用。

「円」の人生~First Love 初恋~

書く前から語りきれる気がしない、含蓄の多すぎるドラマ。

 

Netflixオリジナルシリーズ「First Love 初恋」についてです。

 

 

1人も無駄にしない「運命」の物語

このドラマの一番好きなところは、登場人物が1人も無駄にならないところです。

1人でも欠けたら、主人公2人の人格も、考えも、選択も、きっと違っていたはず。

そもそも、出会ってすらいないかも。

そう思えるくらい、登場人物1人ひとりに厚みがあるところが、本当に素敵です。

まずは、その登場人物を簡単にご紹介します。

 

野口也英

常に最悪の事態に備える。

頭がいいから、先回りして、落下点を予測して守りに入る。

唯一の弱点は、自信がないところ。

ピクニックに行くにも、スピーチコンテストに出るにも、父と会うにも、CAの夢を追うにも、保守的すぎる主人公。

野口幾波子

也英の母。

娘を想うがゆえに、「自分と同じ苦労をさせたくない」「自分が叶えられなかったことを代わりに成し遂げてほしい」と願う。

野口昭比古

也英の父。

結婚直前に他の女性を孕ませ出て行った。

也英と幾波子に「選ばれない、失う、比べる」原体験を与えた人。

向坂行人

也英の元主治医であり元夫。

カレンダーは早くめくるし、プロポーズは指輪の郵送でしてくるせっかちすぎる男。

也英にとっては、最後まで打ち明けることのできない、ラベリングが強すぎた夫。

向坂綴

也英と行人の息子。

2人の離婚後は紆余曲折を経て行人のもとで暮らしているが、物語の中で「正しい護られ方」に触れていく。

並木晴道

純粋、単純、正直の三拍子そろった男。

幼い頃のある経験から、「護る」ことに強いこだわりと熱量のある人。

好意と庇護欲を混同しているところが若干厄介。

並木優雨

晴道の妹。

個性派ぞろいの並木家の中でも、晴道に「護りたい」原体験を与えた人。

まっすぐで温かい「赤」の人。

有川恒美

晴道の元カウンセラーで婚約者。

「恒美のツネは恒星のコウ」でおなじみの芯と癖の強い人。

恒星は、見上げればいつもそこにあり、自分の力で輝く。その名の通りの女性。

占部旺太郎

也英が勤めるタクシー会社の同僚。

新人時代の教育担当であり、也英に密かに思いを寄せる。

終盤は、也英の運命を応援してくれる最高の応援団長。

天才ダンサー。

綴がSNSを通じて出会い思いを寄せる相手。

晴道が勤めるビルで綴と出会い、自らも力強く進みつつ、綴のこれからを後押しする。

 

…はぁー!!!下手くそ!!!(大声)

私の語彙力では薄すぎる。余りにも。

どうしてこういうプロフィールになるのか、その素性がどんな場面でどんな順序で見えるのか。

そこが本当に本当に素敵なんです。

こんなんじゃきっと愛着わかないので、本編見て、本当に。(丸投げ)

 

 

It's Automatic.

このドラマには、様々な人の「どうしようもない衝動」の数々が描かれます。

絶妙なのは、それが恋愛や若さと結びつかないところ。

 

例えば、なかなか帰ってこない綴を也英が探しに向かうシーン。

勝手に駆け出すその足は「母性」からです。

也英のメッセージをきっかけに、晴道が思い出す離陸の感覚。

それは晴道が必死で追いかけ身に着けた「夢のあとさき」。

親の期待に応えようと受験勉強を始めた綴。

それでも頭に駆け巡る音楽は、止められない「才能」。

 

幅広い「衝動」が描かれることで、劇中歌の「Automatic」に新しい視点が増えます。

音楽と映像の最高の共栄です。

 

そして、ストーリーラインにおいても、この「衝動」は重要なテーマ。

 

高校時代の也英は、昭比古に植え付けられた原体験と、幾波子からの保護のもとで、

自分の衝動を抑えて生きています。

そんな壁を壊してくるのが、「純粋・単純・正直男」の晴道。

根拠のない「絶対」で、その衝動を後押ししていきます。

 

晴道と別れた後、行人と結ばれ綴を授かり、そして2人とも失う也英。

「選ばれない、失う、比べる」ことを再び味わってしまった也英は、

挑戦と思考を止めることを選びます。

考えない「ようにする」、今の人生で十分だ「って思う」のです。

 

次そこにエネルギーを与えてくれるのは、晴道ではありません。

旺太郎さん、詩ちゃん、そして綴です。

 

「逃げるな、野口也英!前を向け!息を吸って前進しろ!

傷ついたって、みっともなくたって、人生は飛び込まなくっちゃ!」

 

「どう考えても、100回諦めても、詩ちゃんが好き。」

 

結びに書きますが、まわりまわって、めぐりめぐった人生の中で出会った人々に、

也英は救われていくのです。

 

どんな場面にも、どんな年齢でも訪れるその「衝動」。

分かったふりをしないで、諦められたふりをしないで。

どこでもいつでもまっすぐに向き合って、生きていきたいものです。

 

ところで、私の座右の銘は、

「衝動抑えて、疲れた顔すんな。大人になったって理想は、無邪気のかたまり。」

です。

尊敬してやまない関ジャニ∞の楽曲の一節ですが、きっとこの物語にも通ずるところがあると思います。

見ている間、也英と晴道に聴かせたいと何度思ったことか…!!!

「衝動」抑えがちな人々!関ジャニ∞はいいぞ!!!(薄)

 

「護る」とは

この物語には、たくさんの親子とカップルが登場します。

特に、幼い頃、目の前でおぼれる優雨を助けられなかった悔いのもとで生きる晴道がいることで、「護る」ことがひとつの大きなテーマになっています。

中でも私は、2種類の「護る」を見ました。

 

ひとつは、「狭めて護る」ことです。

 

也英は、幾波子のもとで、ある種「過保護」に育ちます。

学と男運がなく、也英を女手一つで育てることに苦心してきた自分のようにはなってほしくないと語る幾波子。

教育の機会を与える一方で、晴道には最も厳しく接し、父親との接触も制限し、権威と収入を認めた行人との結婚は後押ししました。

 

綴に対する行人も同様です。

音楽の才能を持ち夢を追おうとする綴に対して、将来が保障されている医師という仕事と、そのための勉強を強要します。

 

この2人に通ずるのは、子どもの道を安全な一択に「狭めて護って」いることです。

ただその一本の道で安全なのは、子どもだけでなく自分も一緒。

自身の自己実現のための手段として、子どもの一本道にあやかっている気がします。

 

反対に、もうひとつは、「広げて護る」ことです。

 

也英に対する昭比古、晴道、旺太郎。晴道に対する恒美。そして、綴に対する也英。

この物語では、こちらの「護る」が多く出てくるように感じます。

 

大切な誰かの抱える「衝動」を許す・認める

「衝動」は抱える本人にとっても不安なものである中で、「絶対」をくれる

最初は根拠のないその「絶対」を、努力と行動で裏付けてくれる。

自分が持てる一番きれいなものを、物事の一番いいところを、与えてくれる。

捨てたもんじゃないかもなって期待をくれる

そんな「護る」です。

 

最終話で也英が綴に放つこの台詞。

「親の期待に応えようなんて思わなくていいから。

綴には、自分で選び取ったものを信じる権利がある。

それが間違いでも失敗でも、人生にとっては何かしらの意味があるから。」

 

この台詞は、旺太郎と晴道の合作だと思っています。

晴道への思いにためらう也英に、傷ついてもみっともなくても飛び込めと伝えた旺太郎。

自分の名前を載せた火星探査機のミッション失敗を寂しげに語った也英に、必ず意味はあると伝えた晴道。

2人の思いに触れた今の也英だからこそ発することができた一言なんだと思います。

 

也英に対してはそう言い切った2人も、それぞれの「衝動」と向き合っていて。

也英に言い切った言葉を根拠づける努力と行動を重ねていきます。

きっと意識しているものではないけれど、大切な人に放った言葉はその人自身のエネルギーになる。

 

とてもリアリティのある「護る」だと思います。

 

「円」の人生

誰でも最初から「衝動」と向き合えるわけじゃない。

「正しく」護り護られるわけでもない。

だけど最後はきっと、それが叶う。

そんなメッセージが込められたモチーフの数々を、結びに語らせてください。

 

最たるものは、無線。

晴道が街中で見かけた也英を探すために、無線オタクの後輩から借りるものです。

 

借りる時、晴道は無線を「ロマンティックの交換」と表します。

そんな晴道に対して後輩は、無線だけで人を探し出すことがいかに難しいかを語り、

「奇跡を待ってください」と伝えます。

 

結局晴道は、無線を使って也英が勤める会社まではたどり着くものの、

その日也英は非番。

会うことはかなわず、後日綴の紹介で再会を果たすのです。

 

思えばこれまでも、也英と晴道にはいくつも接点がありました。

也英が晴道の最寄り駅に書いたメッセージ。晴道が送り続けた手紙。

イラクから帰国した晴道とCAになりきっていた也英。

だけど、いずれも再会にはつながらなかった。

「直線」的な交換ではなし得なかったのです。

 

運命は、晴道が"Roundabout"で也英を見かけた日から、変わり始めます。

2人の思い出の中にある、惑星も、CDも、公園もすべて「円」

再会するまでの間も、晴道は自衛隊員として間接的に也英を護り、

也英の作った機内食は晴道に届いていました。

 

このご時世、「まっすぐそのまま」なんていうのは難しい。

だけど、「まわりまわって、めぐりめぐって」なら。

なし得ることがあるかもしれない。

 

捨てたもんじゃないかもなって期待をくれる。

この物語こそ、今の私たちを「広げて護って」くれるものかもしれません。

 

多分今日もどこかで生きている2人へ。

「あなたの名前を火星に」キャンペーンも。

宇多田ヒカルの鮮烈なデビューも。

イラク復興支援の時代も。

リーマンショックの最中も。

東日本大震災の混乱も。

そして、このコロナ禍も。

私たちと一緒に生きてきた也英と晴道は、きっと今日もどこかで生きています。

 

今夜の2人のフライトはどこだろう。

「いつか来るその日にまた会いたい」2人へ。

恥じることのない温かい毎日を。